2012年10月24日水曜日

iPad mini発表 ブレークスルーはまだ遠い

 以前から私は常々「ノートPCが3lbsを切った時にブレークスルーが起きる」(このブログで言ってはいないかもしれない)と言ってきた(この表現を私はしばしば多用する。思っているだけでアウトプットしていない可能性があるので、そういう場合は後出しになってしまっていている。申し訳ない。)。
 この3lbsと言う重さは、自身の直感に基づいたものだ。必要十分なスペックと普及価格帯という条件を満たした上で、「この重さを切ったら買ってもいい」と思える基準。その基準こそが「3lbs」という重さだ。
 そして、実際にブレークスルーは起きた。2010年末第4世代MacBook Airのリリースだ。それまでにも素晴らしいモバイルラップトップはあったが、20万円前後とかなり高額な物が殆どの高嶺の花だった。AcerのAspire Timelineによる価格破壊に続く形で、MacBook Airはその市場に求められる価値を大きく引き上げた。
 その後に訪れたのが現在のUltrabook旋風だ。AcerのZENBOOKやLenovoのThinkPad X1 Carbonに代表されるUltrabookは現在のラップトップ市場を代表する製品となっている。

 本題に入ろう。iPad miniについてだ。iPad miniの重量は308グラム。iPhone 5やiPod touchの大幅軽量化に続く形で、かなり軽量になった。流石にMedias Tab ULの249グラムには及ばないが、一般的な競合他社製品と比較するとかなり軽量だ。
 確かに軽い。非常に軽いのだが、残念ながらiPad miniはブレークスルーを起こすには力不足であると思う。この軽さを実現するには仕方なかったのだろうが、スペックは前世代iPhoneであるiPhone 4Sの流用であるし、Retinaディスプレイも搭載しない。勿論これらのマイナス面は既存のApple製品と比較するからそのように思えるだけで、市場全体における立場を考えれば、Nexus 7とSurfaceの中間の価格、中間のディスプレイサイズを備え、重量ではこの中で最も軽量である事を考慮すれば、バランスに優れた製品である事には相違ない。
 しかしながらiPad miniはあくまでiPad「mini」なのだ。iPadという製品の本流ではない。iPadの主役はあくまでもiPadであり、「mini」ではないのである。

 次のブレークスルーは、10型タブレットが1lbs(453グラム)または500グラムを切った時だと思う。今回発表されたiPad Retinaディスプレイはまだその領域には達していない。1lbsの重量、3万円を切る価格、10型ディスプレイを搭載し、必要十分な性能を備えること。それがタブレット市場を次の段階へとシフトさせるための条件だ。

2012年10月18日木曜日

Google Dart対Microsoft TypeScriptという構図の意味

 TechCrunch Japan記事でも述べられているが、どうやらGoogleはやはりDartに対してかなり本気らしい。それもその筈、GoogleにとってDartが極めて重要なプロダクトであることは疑う余地が無い。それは何故か?

 それはDartがGoogleにとって次代のプラットフォーム戦争における覇権を握るための極めて重要な切り札であるからに他ならない。
 以前から私が常々言っていることではあるが、現在行われているAndroid対iOS(+その他大勢)の構図によるプラットフォーム戦争は、その実体を徐々にウェブ上に移していく筈だ。Facebookはパフォーマンスの問題から同社のアプリケーションにおけるHTML5の利用を中止したが、これはつまり「パフォーマンス(と生産性)の問題さえ解決すればHTML5を採用する」ということに他ならない。実際にはこの他にも、各々のプラットフォーム間での挙動や実装、作法の違いからくる不調和等の細かな問題は山積みであるが、それも徐々に解決していくだろう。ゲーム等の非常にリッチなコンテンツをウェブというプラットフォームで動かすのは当分先になるかも知れないが、そうでないアプリケーションの主流がウェブに移っていくのは時間の問題だ。多くのアナリスト達は現在のようなOSは徐々に息を潜め、プラットフォームの主役はブラウザになると分析する。その次に言うことはこうだ。「今はまだ早い」。

 MicrosoftのTypeScriptやGoogleのDartは、このブラウザ上でのプラットフォーム戦争を担う次代のプラットフォームである、ということだ。現在のHTML5が抱える主な問題、「パフォーマンス」「生産性」「仕様の乱立」の3つを全て解決するために両社が尽力している事は、そのプラットフォームの性質から明らかだ。言語としての機能の充実だけでなく、エディタまで提供している事がそれを裏付けている。
 GoogleがChromeの普及に対して殆ど異常とも言えるほど執着していることも、これを更に裏付けている。現在のChromeブラウザにはまだDart VMが搭載されていないが、Windows、Android、Mac OS、Linuxの全てのChromeに大してDart VMが搭載されれば、Dartは一躍巨大プラットフォームへと変貌する。Chrome以外のブラウザに対してはJavaScriptとして提供すればよいし、Chrome上ではネイティブアプリと見紛う程の速度で動くとなれば、同社のシェアは一気に加速するだろう。更に言えば、優れたVMとエディタが合わされば、Android上でのアプリケーション開発における生産性の低さも同時に解決する。

 とは言え、どのプラットフォームがこの次代のプラットフォーム戦争における勝者となるかはまだまだ未知数だ。先行開発したプラットフォームが結局頓挫するケースは数え上げればきりが無いし、後出しで漁夫の利を狙ったプラットフォームが勝利することもあれば結局先行するプラットフォームに追いつけずに負けるケースもある。今後も各々のプラットフォームの動向を注視していきたい。

2012年10月1日月曜日

2012年秋 Apple発表 所感

 さて、13日(日本時間)のAppleの発表から二週間余りが過ぎ、無事(?)iPhone 5も世に送り出されクールダウンしてきたところで、一連のリリースに関する私の所感を記事として纏めることにする。

 今回の発表内容は、今までと比較して驚きに欠けたものだったように思う。これは私だけの意見ではなく、ウェブ上では散見される意見だ。ただし、私は驚きに欠けていたことを残念だとは思わないし、故ジョブズ氏が存命なら云々等というのはもっての他だ。そもそもスマートフォン全般の新製品の発表が以前ほど新鮮味に溢れたものでは無くなってきているように思え、それはiPhoneも例外ではなかった、というだけの話であるように思う。つまり、スマートフォンというカテゴリの製品や、それに関する技術が徐々に漸くこなれて来たということだ。
 もし仮に、この次の大きな革新が訪れるとしたら、それはウェブによるものだろう(個人的には、それがオープンウェブであってほしいと願っている)。HTML5アプリケーションとネイティブアプリケーションの区別がつかなくなった時、次のパラダイムシフトが起きるだろう。

 話が逸れたので元の話題に戻る。iPhone 5は、控えめに言ってよくできていると思う。革新性・驚きに欠けるという意見が見られるが、順当に進化してきたのは今までも同じ。iPhoneが劇的に変化したのはRetinaディスプレイの採用程度で、それ以上に大きな変化は無かったように思う。むしろ、今回の発表内容が驚きに欠けるのは事前のリーク情報があまりにも多すぎたからではないか、という気がする。
 LTE対応を、3モデルに分けて行ったのは私的には英断だったと思っている。LTEの全世界的周波数対応はまだまだ難しく、仮にやったとしてもバッテリーライフに不安が残る。消費電力と利便性を天秤にかけた上で、3モデルに分割したのは妥当な落とし所だろう。
 しかし、ブラック&スレートモデルの傷が目立つというデザイン上の欠陥や、降るとカタカタと音がしたりディスプレイの問題の話は頂けない。傷については、iPod classicの前面パネルの傷が目立つという話は聞いたことがないので、同様の技術を用いることはできなかったのだろうか、と思う。一方で指でこすると傷が消えるという話もあるので、わざとこのような表面加工にした可能性もあるだろう。結局、実物を何ヶ月か使用してみなければ本当の所は分からない。その他の問題は、初期ロット特有の問題で改善されていく、という展開を望む。

 iPod touchについても、順当に進化したなという印象だ。24800円から、というまで値段が下がったのは、スマートフォンのような高度なプロセッサを搭載したモバイル製品が徐々にカジュアルな製品になり、コモディティ化しつつあることを示しているように思う。ポップカラーで多数のカラーバリエーションを出してきたことも同様だ。
 個人的に頂けないのは、この色がソフトカラーであることだ。新しいiPod touchの色はiPod mini第2-3世代iPod nano第2-4世代iPod shuffleに酷似したソフトカラーを採用している。これは新しいiPod shuffleiPod nanoも同様だ。個人的には第4-6世代iPod nanoのようなビビッドカラーが好きだったので、全てビビッドカラーで統一して欲しかった。ただまぁ、これは個人的な好みの問題だろう。
 iPod touch loopはとても有り難い。ケースや保護シートを使えば落下時の破損の可能性を低減することはできるが、そもそもの落下する可能性を大幅に低減することができるのは大きな進化と言えるだろう(今まで無かったのがおかしいとも言えるが)。惜しむらくは、このiPod touch loopが全てのiPodとiPhoneで採用されるまでには至らなかったことだ。せめて、全てのiPodとは言わないまでもiPhoneには採用して欲しかったところだ。

 iPod nanoは、Lumia 800にデザインが似すぎているように思う。ただ、元記事にも書かれているように、Lumia 800のデザインが第6世代iPod nanoに似ているとも言えるので、敢えて深く追求する必要は無いだろう。むしろ、ディスプレイ消灯時に黒色のフロントパネルに沈み込み、フルフラットデザインを強調してくれるLumiaのデザインの方が私には格好よく思える。iPod nanoが白色のフロントパネルを採用したのはLumiaと酷似しすぎてしまうのを回避するためか、それともよりライトなユーザ層を意識した結果か、はたまたその両方だろうか?
 縦長のボディへの回帰は私が待ち望んだ物と寸分違わないもので、第6世代iPod nanoが出た時の失望を大きく払拭してくれるものだった。iPod touchを小型化し、ソフトウェア面の拡張性を取り払った、iPod touch miniとでも言うべきこのデザインはポータブルメディアプレイヤーとして非常に優秀だと思う。

 Lightningコネクタは、動的割り当てによるリバーシブル設計や小型化等のコネクタそのものの優れている点については納得できるが、何故Micro USBにしなかったのか、と思う。Appleとしては電圧を自社管理すること等の目的もあるのだろうが、広く普及しているMicro USBケーブルが使えないデメリットの方が私としては大きい。

 iOSに関しては…まぁ頑張ってほしい所だ。OSの設計そのものが陳腐化しつつあるという意見もあり、私も同じように思う。iOSの一貫したUIは非常に優れていると感じるので、Mac OS 9からOS Xへのような進化に期待したい。